御茶ノ水は、駅を降りた瞬間に「オフィス街」だとわかる街です。楽器店が並ぶ明大通り、大学の校舎ビル、ビジネスパーソンが行き交う駿河台下の交差点。学生街というよりビジネス街に大学がある、という方が正確かもしれません。

この街に住んでみて最初に気づいたのは「暮らし」の気配の薄さでした。飲食店は多い。大学も近い。交通も便利。なのに、生活感がない。スーパーの少なさ、土日の人の少なさ、洗濯物を干す場所のなさ——住んでみないとわからないことがいくつもありました。

この記事でわかること

  • 日常の買い物で最初につまずくスーパー事情
  • 神保町カレーは「昼の文化」として生活に根付く
  • 古書店街の居心地は住んでから変わった
  • 土日の静けさと平日の喧騒の振り幅が大きい

スーパーが少ない——これが一番の盲点

御茶ノ水・神保町エリアに住んで最初に困ったのは、スーパーの選択肢の少なさです。

駅周辺で日常的に使えるスーパーは成城石井 御茶ノ水ソラシティ店くらい。営業時間は月〜土7:30〜23:00ですが、日曜は9:00〜21:00で2時間早く閉まる点に注意が必要です。平日は会社帰りのビジネスパーソンで混みます。品揃えは充実していますが、価格帯が成城石井なので毎日の食材調達にはやや高い。牛乳やパンを買うだけでも、高田馬場のまいばすけっとと比べると出費が増えます。

もう少し安く済ませたいなら、淡路町方面のオリンピック淡路町店まで足を伸ばす必要があります。御茶ノ水駅からだと徒歩7分(淡路町駅からは徒歩3分)、ワテラスモールB1Fで9:00〜21:00営業。授業帰りにギリギリ寄れる距離ですが、4限後だと閉店までの時間が短い点に注意が必要です。

結果的に、コンビニでの買い物頻度が上がります。ファミリーマートやローソンは駅周辺に何店舗もあるけれど、コンビニの食材だけで自炊を回すのは難しい。「御茶ノ水は便利な街」と聞いて住み始めた人がまずつまずくのがここです。飲食店は山ほどあるのに、自分で料理するための買い物が不便。

対策としては、週末に秋葉原方面まで出てまとめ買いするパターンか、ネットスーパーを活用するか。秋葉原は御茶ノ水から徒歩10分ほどで、肉のハナマサ秋葉原店(24時間営業)で業務用サイズの肉や冷凍食品が手に入ります。かつて近隣にあった業務スーパー神田店は2022年2月で閉店しているため、業務スーパーで揃えたい場合は最寄り店舗の上野広小路店(台東区上野2-3-4・9:00〜22:00、御茶ノ水から徒歩約20分)まで足を伸ばす形になります。自炊を続けるつもりなら、この動線を早めに確立しておくのが吉です。

神保町カレーという文化に巻き込まれる

神保町に住む前は「カレーの街らしい」くらいの認識でした。住んでからわかったのは、ここのカレーは「食事」というより「文化」に近いということです。

ボンディは1973年創業の欧風カレー。看板のビーフカレーは公式サイト掲載で1,700円台後半(2026年5月時点)、付け合わせのじゃがいもが丸ごと出てくる。初めて行ったときは量に驚きました。平日の昼でも行列ができますが、13時半を過ぎると落ち着く。

共栄堂は1924年創業で、スマトラカレーの専門店。神保町のカレー文化の原点とも言われる店です。サラサラした独特のルーで、欧風カレーとはまるで別の料理。

エチオピアは辛さを0〜70倍まで選べるカレーと珈琲の店。初心者は5倍くらいから始めた方がいい。辛さに自信がある人でも20倍あたりで汗が止まらなくなります。

ガヴィアルは1982年創業の欧風カレー。28種のスパイスを使い、開店以来継ぎ足してきたソースで知られています。

これらの老舗カレー店は学生の財布には正直きつい価格帯になりがちなので、毎日通うものではありません。ただ、週に1回の「自分へのご褒美」としては月4回行ってもまとまった額で収まります。カレー以外の日は後述するもっと安い選択肢で過ごせます(各店の最新価格は店頭またはGoogleマップで確認)。

住んでいると、自分の中で「今日はボンディの気分」「共栄堂でサラサラカレーが食べたい」というローテーションができてくる。これが神保町に住む楽しさの一つです。

学生の昼飯は神保町の路地裏にある

カレーの名店は観光客も来るため、昼どきは混みます。毎日の昼食は、もっと手軽な場所で済ませることの方が多い。

キッチン南海は神保町交差点近くのカツカレーの名店。駿河台キャンパスからは徒歩5分ほどの距離。行列ができることもありますが、回転が速いので10分も待てば入れます。

まんてんは駿河台下交差点付近にあるカレー屋で、カツカレーが看板。学生にはこちらの方が通いやすく、ボリュームも十分で昼休みにさっと食べて戻れます。

カレー以外なら、駿河台下〜神保町にかけての路地に中華料理屋や定食屋が点在しています。学生財布で食べられる店が何軒かあるので、1ヶ月住めば自分の定番が見つかるはず。

明治大学の駿河台キャンパスにはカフェパンセという学食的な施設もあります。ランチセットは学生価格で、学外の飲食店より明らかに安い。ただし昼休みの12:10〜12:40は非常に混雑するので、少し時間をずらすか、空きコマの時間帯に利用する方が快適です(神保町・駿河台の飲食店の価格は各店公式またはGoogleマップで確認)。

古書店街は「住んでから」好きになった

正直に言うと、入学前は古書店にまったく興味がありませんでした。本はスマホで読むし、紙の本は重いし場所を取る。

変わったきっかけは、たまたま靖国通りを歩いていて、ワゴンセールの100円均一コーナーに目が留まったこと。専門書から文庫本まで、100円で叩き売りされている本の山を眺めるのが暇つぶしになり、気づけば週1で靖国通りを流すようになっていました。

神保町の古書店は約130店。靖国通りを駿河台下から西に歩くと、両側に書店がずらりと並ぶ光景が続きます。文学、法律、芸術、漫画、洋書——専門分野ごとに店が分かれているので、自分の学部に関係する専門書が安く手に入ることがあります。

東京堂書店は1890年創業の新刊書店で、1階の棚は担当スタッフが厳選した本が並ぶ。併設のPaper Back Cafeで東京堂カレーを食べながら買ったばかりの本を読む、という過ごし方ができる。

三省堂書店 神田神保町本店は2022年5月に旧店舗を閉店して建替えに入り、2026年3月19日に同じ神田神保町1-1の本店ビルで営業を再開しました。営業時間は10:00〜20:00。書店フロアは1〜3階、4階にはTHEジャンプショップ、3Fに喫茶ちそうが入っていて、教科書を探しに行くついでに関係ない棚を覗いて1時間が溶けます。

本を買わなくても、古書店街を歩くだけでいい散歩になります。店先に並ぶ本の背表紙を眺めながらゆっくり歩いて、疲れたら喫茶店に入る。この動線が日常にあるのは御茶ノ水・神保町に住む特権です。

喫茶店が「第二の部屋」になる

神保町には昭和から続く喫茶店が何軒もあって、ここが勉強場所や空きコマの居場所になります。

さぼうるは1955年開業で、山小屋のような外観が神保町の象徴的な風景になっています。色とりどりのクリームソーダが名物。ただし勉強向きというよりは、友達と来てだらだら過ごす場所。

ラドリオは1949年創業で、日本で初めてウィンナーコーヒーを出した店として知られています。レンガ調の店内は落ち着いていて、一人で本を読むには最適。コーヒー1杯で1時間いても居心地が悪くならない。

チェーン系のカフェも駅周辺に多く、ドトール、スターバックス、カフェ・ド・クリエは電源とWi-Fiが使える店舗があります。課題をやるだけならチェーン系の方が効率はいいけれど、たまにラドリオやさぼうるに行くと気分転換になる。

御茶ノ水駅周辺のカフェは平日昼間はビジネスパーソンで混みますが、15時以降は空き始めます。5限までの空きコマが長い日は、14時台にカフェに入ると比較的すいている。

土日の「誰もいない街」に慣れるまで

御茶ノ水・神保町で住んで最も驚いたのは、土日の人の少なさです。

平日はオフィスワーカーと学生で歩道が埋まっている明大通りが、土曜の午前中にはがらんとしている。飲食店もランチ営業をやっていない店があり、日曜に至っては閉まっている店が多い。

ビジネス街の宿命で、平日に街を支えている人たちが週末にはいなくなる。コンビニと一部のチェーン店は開いているけれど、「日曜に何か食べよう」と思って外に出ると、選択肢が平日の半分以下になっていて戸惑います。

逆に言えば、土日の御茶ノ水は非常に静かで落ち着いた環境です。神田明神(神田神社)まで徒歩10分ほどで、約1,300年の歴史を持つ境内は週末でも喧騒とは無縁。桜の季節には境内の桜が見事で、花見の穴場でもあります。

湯島聖堂も御茶ノ水駅から徒歩3分ほどの場所にあり、孔子を祀った静かな空間。ここは観光客もあまり来ないので、本当に静か。ベンチに座って過ごすと、都心にいるのを忘れる時間がある。

土日の静けさを「寂しい」と感じるか「快適」と感じるかは人によります。一人で静かに過ごすのが好きな人には合うけれど、休日も街の賑わいの中にいたい人には向いていない。

先に知っておきたかったこと

家賃は千代田区の相場に引っ張られて高い。御茶ノ水駅徒歩5分圏内の賃貸物件は数が少なく、大半が高層マンション。学生向けの1Rや1Kを探すなら、本郷三丁目方面か水道橋方面まで範囲を広げた方が選択肢が増えます。

洗濯物を外に干しにくい。ビル街なので日当たりが悪い物件が多く、ベランダがあっても隣のビルと向かい合っている場合がある。浴室乾燥機かコインランドリーの場所を事前に確認しておいてください。

自転車は意外と使いにくい。御茶ノ水は坂の街で、駿河台(するがだい)の名のとおり台地の上に位置しています。秋葉原方面に下りるのは楽ですが、帰りは上り坂。駐輪場の数も住宅街に比べると少ないので、自転車通学を考えている場合は物件の周辺を実際に走ってから決めてください。

交通面はかなり強い。JR中央線・総武線、丸ノ内線、千代田線(新御茶ノ水駅)が使え、新宿まで9分、東京まで5分。これだけ都心に近い大学はなかなかない。終電も遅くまであるので、バイトやサークルで帰りが遅くなっても安心です。

この街の正直な印象

御茶ノ水・神保町は「暮らしやすい街」ではありません。スーパーは少なく、休日は街が眠り、家賃は高い。生活インフラだけ見れば、高田馬場や中野の方がずっと充実しています。

それでもこの街には、他にないものがあります。130店の古書店、数十軒のカレーの名店、昭和から続く喫茶店。明治大学の授業が終わった後に靖国通りを歩くだけで、東京のどこにもない風景の中を通り抜けている。神保町の文化が日常に溶け込んでくる感覚は、ここに住まなければ得られないものです。

「便利さ」を取るか「面白さ」を取るか。御茶ノ水・神保町は後者に全振りした街だと、住んでみて感じています。


参照元・注記

  • 飲食店の価格帯・営業情報: Googleマップ・食べログの掲載情報(2026年4月閲覧)をもとに編集部が整理
  • カレー店の歴史・創業年: 各店舗の公式サイト・神田カレーグランプリ公式サイト(2026年4月閲覧)
  • 古書店・書店情報: 千代田区観光協会(Visit Chiyoda)公式サイト(2026年4月閲覧)
  • 喫茶店情報: 各店舗の公式情報・Googleマップ掲載情報(2026年4月閲覧)
  • 交通アクセス: JR東日本・東京メトロの各路線情報(2026年4月時点)
  • 神田明神・湯島聖堂: 各施設の公式サイト(2026年4月閲覧)
  • 価格・営業時間は変動することがあります。訪問前に最新情報を確認してください

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